ベックリンは最晩年の作品メランコリアに、鏡を覗き込む女の姿を描いている。しかし鏡は暗く澱んで、形をとどめぬ廃墟のようであり、そこには女の顔も、背後の風景も存在しない。明るい色彩から受ける印象とは反対に、言い知れぬ喪失感をその絵は表出している。
一方、拭いがたい喪失感を心に刻印された少年が、自分自身の生きるべき世界を見出す過程で得られたであろう音楽もある。U2のボーカルで歌詞の殆どを書いたボノは14歳の時に母を亡くした。U2のデビューアルバムBOY、殊に第一曲 I will follow は切実で、その鮮烈な音楽には、ポジティブに世界に関わろうとする潜在的な渇望がある。しかしポジティブな意識の成立には、先験的に受動的な、世界に対する存在信憑が不可欠である。
I will followは、イェイツの A vision 幻想録の言う
第四相、「外界に対する欲望」(意志) 「強制される知的行動」(宿命体)等をファクターとする理念型を想起させる。ボノの歌う第四相に由来する意志的行動は、心の奥底の喪失感への帰依と不在の存在信憑を希求する意識とに引き裂かれつつ、動機づけられている。 I will follow
生き得る世界は喪失感の対極にしかなく、世界に反抗する事と受け入れる事は同義となる。だから、 walkaway walkaway 先験的受動性が投げやりの気楽さを偽装する場所を、彼自身の生命線とせざるを得ないのである。
潜在的に渇望する世界から愛のイマジネーションを汲み上げる境位は、その後も不変で、U2はBOYの切実さを憧憬し続け、そこへと回帰すべきベクトル上に留まり続けているように見える。 by びれいぽいんと店主
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