「駅」は有り続けるものと、私たちは思っている。
「駅」には繋ぎ止められた、通勤や通学の日々の記憶が凍結されている。そして私たちは、反復する日々の裡にあって訝ることなく、「駅」を通過していく。
2013年3月15日、東急東横線渋谷駅が85年間の歴史を終えた。渋谷から日吉まで東横線で通っていた頃の感覚が、私の裡で甦る。もう40年も前になるのだな、と思う。東横線渋谷駅が存在することで無意識に閉ざされていた記憶が、時を侵犯して押し寄せてくる。
有り続けるべきものが失われると、私たちの無意識は地殻変動を引き起こす。その前に「駅」を立ち去るための祭事に集うかのように、3月15日深夜の東横線渋谷駅構内には、デジカメやスマートフォンを手にした大勢の人々の佇む姿があった。
3月22日から24日にかけての3日間、東急は、「Station Park ~「ありがとう」と「さよなら」の3日間~」と銘打って、既に運行を停止した渋谷駅で一大イベントを展開した。デベロッパーと商業広告会社の貌を併せ持つ東急グループの企画に相応しく、人々のノスタルジーを直ちに商業イベントに吸収する。これは「さすが」と言うべきか? そして今、イベント会場としての「ekiato」が消費されている。
渋谷は、郊外の良質な住宅地へ向かう東急線や井の頭線のターミナルと、東京最古の地下鉄銀座線が対峙する、人々の「気」が溜まりやすい盆地の街であった。その渋谷の変貌を、私たちはまた、眼にすることになるのだろうか。 by びれいぽいんと店主
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